女性特有の「血の道症」
女性は思春期、妊娠・出産期、更年期などバランスが大きく変動する時期があり、さまざまな不調が起こりやすくなります。
漢方では「血の道症」という女性特有の病気があり、月経、出産、閉経などの影響によるホルモンバランスの乱れが原因であると考えられています。
冷え、のぼせ、頭痛、動悸などの「血の道症」の症状で悩む女性は、年齢を問わず多いものです。
その中には、病院に行くほどでもない症状や、検査をしても異常なしといわれてしまうような不調もありますが、漢方薬の効果を実感できることが少なくありません。
漢方は、現代を生きる女性にとって大きな助けになるはずです。
女性と漢方
「古今方彙(ここんほうい)」(1075処方)という江戸時代の処方集には、現在の産婦人科である【女科(じょか)】という項目があります。
【女科】は、調経(ちょうけい)、経閉(けいへい)、帯下(たいげ)、妊娠(にんしん)、婦人諸病などの項目があり、それぞれに経験がしるされています。
漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、先人達の経験と知恵がつまった記録である古い医学書から学ぶことが大切です。
「気血水」という考え方
様々な漢方理論はあるものの人間の体は機械のように一律ではなく、それぞれの体質も生活環境も異なり、それらが複雑に絡み合い不調の基となっているため、理論通りにいくことばかりではありません。
しかし、「気血水」という考え方は漢方の基本理論の一つであり、随分役に立ちます。
この3つはそれぞれが影響し合っており、バランス良く巡っている時には身体の不調はほとんどないと考えられています。
「血の道症」であらわされるホルモンの乱れは、血の滞りである「瘀血(おけつ)」の1つとされています。
気 | 機能的なものや目に見えないもの。 精神、エネルギー、臓器の働きなど |
血 | 器質的なものや目に見えるもの。 肉体、臓器、血液、ホルモンなど |
水 | 血液以外のすべての体液。 リンパ液、消化液、痰、涙など |
女性の3大漢方薬
産婦人科領域で3 大婦人薬といわれるものに、次のような処方があります。
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
有名なものばかりですので、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この3つの漢方薬は「気血水」のどこの巡りが悪いかで使い分けます。
気の巡りが悪い人 | 加味逍遙散 |
血の巡りが悪い人 | 桂枝茯苓丸 |
水の巡りが悪い人 | 当帰芍薬散 |
加味逍遙散(かみしょうようさん)
『女科撮要(じょかさつよう)』という古典に載っている処方です。
柴胡、山梔子、薄苛葉など気の滞りを改善するよう働きかける生薬が含まれている漢方薬です。
虚弱傾向にあり、神経症状を伴う状態に用いられることが多い漢方薬です。
手足の倦怠感、頭重、めまい、不眠、多怒、灼熱感、のぼせなどの症状に伴う月経不順、更年期障害、不定愁訴、主婦湿疹、不眠症などに使われます。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
『金匱要略(きんきようりゃく)』という古典に載っている処方です。
血の滞りを改善するよう働きかける牡丹皮、桃仁などが含まれている漢方薬です。
比較的体力があり、貧血の傾向がなく、のぼせ、肩こり、頭重、めまいなどがある人の月経不順、月経痛、更年期障害などに使われます。
もとは粉末を蜂蜜で練り固めた丸剤として利用されましたが、江戸時代には洗剤の効果の速さも尊重されました。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
『金匱要略』に載っている処方です。
白朮、茯苓、沢泻などの体内の余分な水を流すよう働きかける生薬や、当帰などの体を温める生薬が含まれている漢方薬です。
貧血傾向で、冷え症で疲れやすく、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などがある人に使われるほか、女性の保健薬、安胎薬としても手軽に使われます。
もとは散剤をお酒に混ぜて服用し、妊婦の強い腹痛や女性の様々な腹痛を治すために使われました。
後に煎剤としてもよく利用され、女性の多くの病気に応用されるようになっていった漢方薬です。
このように、女性の3大漢方薬は「気血水」の不調によって使い分けを考えられることが多いのですが、それぞれがバランスを取り合っている「気血水」のうち1つだけに問題がある場合はまず考えられません。
実際には、桂枝茯苓丸タイプと当帰芍薬散タイプを混合したような人もおり、その人にはほかに適する漢方薬があります。
女性によく用いられる漢方薬は、3大漢方薬だけでなく、たくさんの種類があるのです。
また、「気血水」の他にも漢方理論はいろいろありますが、人間の体は機械ではありません。
それぞれの体質も生活環境も異なり、それらが複雑に絡み合い不調の基となっているため理論通りにいくことばかりではないのです。
西洋医学も現在ほど発達していない時代の先人達は、現在よりもそのことを痛感していたはずです。
漢方薬は自己判断で服用したりせずに、専門家に相談して上手に利用しましょう。