女性の病気~ 漢方を試してみたい病気 ~
妊娠・出産という大切な役割をはたす女性の体は、ホルモンのバランスが微妙に狂いやすく、冷え症、月経不順、月経痛、不妊症、子宮筋腫など、多くの病気や症状をおこしやすいものです。
古くから、〝血の道症〟と俗にいわれる症状がありますが、漢方で意味する〝血〟は、血液と血液に含まれるホルモンなどの成分を含めたもので、この〝血〟の乱れを〝瘀血(おけつ)〟といい、病気をおこす原因のひとつと考えます。
そして、瘀血(おけつ)を漢方薬で上手に整えれば、女性の病気の多くが改善されやすいのです。
現代のホルモン剤では苦手な微妙な調整も、的確な漢方薬を選用すれば、難しいものではありません。少し根気をもって服用すれば、体調が整っていくのがわかるでしょう。
※漢方薬を紹介する場合は、一般的に入手しやすい範囲のものに限りました。
こんな時に漢方を
月経不順・月経痛
月経不順や月経痛を治す有効な手立ては今の西洋医学にはなく、ピルなどを用いたホルモン療法や鎮痛剤で一時しのぎを続けることしかできないのが現状です。
漢方では昔から、「婦人ノ諸病ノ起(おこり)ハ月經ノ不調ニヨル也。經水或ハ前(すす)ミ、或ハ後(おくれ)、或ハ多ク、或ハ少ク、或ハ月ヲ踰(こえ)テ来タラズ、或ハ一月ニ両(ふたた)ビ来ル類、是皆不調ノ故也。」(『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』香月牛山(かつきぎゅうざん)著、1779年)などといわれるように、月経の乱れは女性の病気の多くに関係していることがわかっていました。
そして、女性のホルモンバランスを整えて、月経不順や月経痛を治す漢方薬がたくさん工夫されてきました。
それらの薬を体質と症状に合わせて用いれば、月経不順や月経痛が改善されないことは稀です。
漢方薬には、西洋薬のホルモン剤や鎮痛剤のように、強制的に月経をコントロールしたり、痛みを即座に抑えたりする効果はありません。
しかし、一時しのぎではない体質改善を望むことができ、月経不順や月経痛を次第になくしていくことができます。
子宮内膜症・子宮腺筋症
子宮内膜症は、本来は子宮の内側にしか存在しないはずの子宮内膜が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所にできる病気です。
そして、子宮内膜が子宮の筋肉の中にできるものが子宮腺筋症です。
原因ははっきりしていませんが、月経痛や月経時以外でも下腹部の痛みを訴えることが多く、西洋医学ではホルモン療法や手術などが行われます。
漢方がよく効くことが多い病気ですが、月経痛などの症状が強い場合は良質の煎剤でなければ効果が弱いことがあります。
子宮筋腫
子宮筋腫は子宮にできる良性の腫瘍です。
症状がなければ何もしないで、お医者さんに定期的に検診してもらうだけでよいのですが、月経痛や過多月経、貧血などの症状が続けば、ホルモン療法や手術が行われます。
漢方では、月経痛、過多月経、貧血はどれも対応しやすい症状です。
そして、漢方薬を続けて飲めば、体調が整い、子宮筋腫が小さくなることも稀ではありません。
どうしても手術が必要な子宮筋腫は、あまり多くないものです。
貧血
日本人の貧血の約七割が鉄欠乏性貧血です。
鉄欠乏性貧血は血液中の赤血球に含まれるヘモグロビン(鉄分)の量が少なくなった状態です。
女性は月経によって血液とともにヘモグロビンも失われるので貧血になりやすいのです。
子宮筋腫や子宮内膜症などでは過多月経になりやすく、貧血になりやすくなります。
また、月経血の量が特に多くなくても、本人の体の状態にとって月経の頻度や量が多すぎる場合にはやはり要注意です。
この場合は、月経と貧血との関連に気づきにくいのですが、漢方薬を飲むことで月経が本人の体にとって最善の状態に近づくにつれて貧血が改善されます。
貧血になると疲れやすくなり、めまいや立ちくらみ、動悸や息切れなどの症状があらわれることがあります。
不妊症
正常な夫婦生活があって妊娠を望みながら、2年以上妊娠しない状態を不妊症といいます。
冷え症、月経不順、月経困難症、子宮内膜症、無月経などの症状がある女性が漢方薬を飲むと、いろいろな症状が少しずつ改善されて、体調が整っていきます。
そして、いつのまにか妊娠したというケースが多く見られます。
江戸時代の名医、本間棗軒が著した『内科秘録』(1863年)には、「子供が無いのは婦人を責めるけれども、婦人のみでなく、夫に子種がないこともある。」としながら、「女性が原因で子供ができない場合は、月経が不調だからだ。月経が早く来たり、遅れたり、経血の量が多過ぎたり、少な過ぎたり、月経の時に腹痛が強く期日が長引くもの、又経血の色が紫や黒、淡い紅色だったり、経血が凝血して塊になるものなどは、皆妊娠することができない。」などと書かれており、月経を整えることの大切さは昔から説かれていました。
なお寿元堂薬局の経験では、夫に深刻な問題がない場合、夫婦のどちらに不妊の原因があっても、女性が漢方薬を飲むことで妊娠するケースがよくありました。
ところが近年、不妊症の夫婦が増えており、全般的に以前よりも妊娠しにくくなってきたためか、夫婦それぞれに漢方薬を飲んでもらって妊娠の確率を上げたいケースが増えています。
更年期障害・血の道症
閉経期の女性が、女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴ってホルモンのバランスを失って不都合な症状が起こるのが更年期障害です。
自律神経の調節がうまくいかなくなり、ほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)、頭痛、めまい、不眠、不安、いらいら、耳鳴り、立ちくらみなど、不定愁訴を中心とした様々な症状が出ることがあります。
多くの場合は50歳前後に閉経しますが、早い人では40歳代の前半、遅い人では50歳代の後半になることがあります。
さて、昔から血の道症などといわれることがあります。
江戸時代の書物にも「産後には養生しておかないと血の道持ちというて生涯病者になる者がある。」、「婦人の持病に肩が張り、頭痛する者は、俗に血の道と云う。」、「婦人常に虚弱にして頭痛、眩暈する者、俗に血道煩と云う。」などと書かれています。
産後の血の道のほか、女性がホルモンバランスを崩して不都合な症状がでる状態を「血の道症」といったのです。
閉経期だけでなく、女性のホルモンバランスが乱れて起こる症状が目立ったのでしょう。
これらの症状に対して、一人一人の体質と症状を大切にする漢方のきめ細かな対応と穏やかな効き目が優れた効果をあらわします。
女性によく使われる漢方薬
虚弱な人は穏やかな作用で補い、充実した丈夫な人には強い漢方薬がよく効きます。
漢方は一時抑えではありません。
体質と症状によく合った処方を少し続けてみましょう。
詳しいことは寿元堂薬局または漢方の専門家によく相談してください。
当帰四逆湯とうきしぎゃくとう | 虚弱な人で、手先や足先が冷えて下腹部が痛くなりやすい人に使われます。 冷えが強いときには呉茱萸と茯苓を加えて当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)にします。 男女を問わず、しもやけや冷え症の改善にも使われます。 |
人参当芍散にんじんとうしゃくさん | 品質のよい漢方製剤で有名な長倉製薬を創立した長倉音蔵(ながくらおとぞう)先生が創作した漢方薬です。 当帰芍薬散に桂枝、人参、甘草を加えたもので、当帰芍薬散よりもよく体を補い、応用範囲も広がって使いやすい漢方薬です。 月経不順、不妊症、更年期障害、血の道症、貧血などのほか、潰瘍性大腸炎にも使われます。 当帰芍薬散を飲んで、胃がもたれたり、下痢をしたりする人にも使えます。 体力が乏しく、筋肉も弱く、冷え症や貧血の傾向がある人の多くに適します。 |
当帰芍薬散とうきしゃくやくさん | もともとは、散剤をお酒に混ぜて飲んで、妊婦の強い腹痛や女性のいろいろな腹痛を治すために使われました。 後に煎剤としてもよく利用され、女性の多くの病気に応用されるようになっていきました。 貧血、冷え症で疲れやすく、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などがある人に使われるほか、女性の保健薬としても手軽に使われます。 |
加味逍遙散かみしょうようさん | 虚弱傾向がある女性の神経症状を伴なう状態に使われます。 手足の倦怠感、頭重、めまい、不眠、多怒、灼熱感、のぼせなどの症状を伴う月経不順、更年期障害、不定愁訴、子宮筋腫、主婦湿疹、不眠症などに使われます。 |
温経湯うんけいとう | 最初は不正出血を止めたり、不妊を改善する薬でした。 今では、冷え症でのぼせがあり、手のひらがほてったり、唇が乾燥したりする人の月経不順、不妊症、流産癖、不正出血などに使われます。 |
桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん | もとは粉末にして蜂蜜で練り固めた丸剤として利用されましたが、江戸時代には煎剤の効果の速さも尊重されました。 比較的体力があり、貧血の傾向がなく、のぼせ、肩こり、頭重、めまいなどがある人の月経不順、月経痛、更年期障害などに使われます。 |
美容と漢方
つい5、60年前には、日本の女性の肌の美しさは世界一だといわれていたものです。
ところが今は…。
さて、女性の病気で漢方薬を飲んでいる女性の肌は、きれいになることが多いものです。
特に煎剤を続けて飲んでいる人が気づくことが多いのですが、顆粒剤や錠剤で効果がわかる敏感な人もあります。
美容に関しても、漢方は体の中から効いてくるので、効果が出るまでに少し根気がいります。
しかし、きれいになってからも後戻りしにくいのは漢方の効き目の特徴のひとつです。
最近では化粧品や浴用剤を漢方薬とともに使う人が増えています。
漢方薬を飲んで体調を整えながら、皮膚からもよい影響を与えれば、効果が早く出るのは間違いないでしょう。