漢方薬の効き方の実際~ 漢方あれこれ ~
漢方薬の効き方は様々です。
予期せぬ速効をあらわすこともあれば、思うように効果が出ない例もあります。
難しい病気や症状に著効を示すこともあれば、一般的な病気の中にも漢方が苦手なものがあります。
ここでは漢方薬の効き方の実際をみてみましょう。
寿元堂薬局の長年の経験の中で著効例にはことかきません。
しかし著効例ばかりでは偏りますので、少しずつですがいろいろな例を集めてみようと思います。
プライバシーには十分配慮しており最近の症例は取り上げていません。
また、多くの漢方薬に著効例がありますが、たまたま取り上げたものが特別視されがちになりますので、特定の漢方薬にはこだわらないで下さい。なお、今後追加する例では、できるだけ漢方薬の名前は記載しないようにします。
漢方薬は一人一人の症状と体質に適したものを選んで、上手に利用しましょう。
- アトピー性皮膚炎 [男性 25才]
- 慢性湿疹 [男性 58才]
- 主婦湿疹 [女性 35才]
- ニキビ [男性 27才]
- 膝の痛み(変形性膝関節症) [女性 60才]
- 関節リウマチ-1 [女性28才]
- 関節リウマチ-2 [男性 60才]
- 不眠症 [男性 41才]
- 不妊症 [女性 34才]
- 子宮筋腫 [女性 40才]
- 耳鳴り・頭痛 [女性 38才]
- 糖尿病 [男性 69才]
- 胆石症 [女性 42才]
- 慢性便秘 [女性 27才]
- 気管支拡張症 [男性 65才]
- 高血圧症 [男性 75才]
- 膠原病 [女性 64才]
アトピー性皮膚炎 [男性 25才]
幼少時に症状があり、いったん治まっていたが受験期より増悪して治らない。
皮膚は乾燥して痒みが強い。
温清飲(煎薬)を服用して2週間後には少し痒みが軽くなり、3ヶ月後には少し痒みが残っているものの症状のほとんどが治まった。
過去は子供の病気だったアトピー性皮膚炎ですが、何時の頃からか大人の患者さんが増加し、しかも年齢を問わず治りにくくなっています。
以前はこの方のような治り方が一般的だったのですが、今では著効例になってしまいました。
通常は漢方薬を根気よく続けて少しずつよくなっていきますが、それでも良質の煎薬を使用する人の中から、著効例が時々出るのは嬉しいことです。
慢性湿疹 [男性 58才]
糖尿病があり、赤ら顔の丈夫なタイプ。
長年悩んでいる痒みの強い湿疹に消風散(煎薬)を服用。
その後一週間程度、痒みが増強した後、軽快。
以後は10日分ずつ4回、間欠的に煎薬または顆粒を服用するだけで、自覚症状がなく推移する。
永年続いている慢性湿疹なので、症状の改善傾向が自覚できるまでには2~3ヶ月の期間が必要と予測していたが、瞑眩(めんげん)という一時的に症状が悪化する現象が起こって、わずか一週間あまりで症状が殆ど治まってしまった例。
主婦湿疹 [女性 35才]
幼少時よりアトピー性皮膚炎があり、主婦湿疹は数年前から悪化。
5年前まで皮膚科に通院して治療するもよくならない。
春より症状が悪化して、水疱とかゆみがあり、5月に来局。
桂枝加黄耆湯(煎)を服用して中黄膏を外用とし、20日後には水疱が消え、かゆみも治まる。
10月迄に漸減して廃薬。その後、翌年の八月に再発したが、同じ漢方薬を服用して良い結果を得る。
主婦湿疹は女性だけでなく水仕事の多い男性にもみられます。
治りにくいものが多く通常は1~2ヶ月間の経過をみますが、男女を問わず1ヶ月以内という短期間で改善の傾向がみえることが時々あります。
ニキビ [男性 27才]
多種の漢方薬(顆粒、錠剤)を服用中も症状の改善なく来局。
十味敗毒湯を選用し、胃の不調もあるので半瀉六君子湯を併用したが、2週間ほどで効果があらわれた。以後改善傾向が続き、6ヶ月後には半量に減量しても調子がよく、その後は漸減して廃薬。
以前は1~2週間もあれば治まるタイプのニキビが時々ありましたが、最近は2~3ヶ月くらいの経過で徐々に改善傾向があらわれるものが増えています。
少し根気よく治せばよいでしょう。
膝の痛み(変形性膝関節症) [女性 60才]
6~7ヶ月前より、膝がずきずきと痛み、朝起きたときに手足が強ばる。
少し肥満したタイプで下半身がむくむ。
防已黄耆湯(煎薬)を1ヶ月服用して、足の痛みと手足のむくみなどはほぼなくなる。
さらに1ヶ月飲んで廃薬。
この病気は中高年の女性に多いものです。
軽いうちは治りやすいのですが、症状を繰り返すうちにだんだんに治りにくくなります。
見た目の症状と治りやすさが一致しないこともあり、肥満や日常生活の負担も影響します。
関節リウマチ-1 [女性28才]
数年前から関節リウマチの症状が出て、関節の変形がはじまっていた。
主治医の先生の治療のほかに、漢方薬を含めて多くの種類を飲んでいたが効果がなく来局した。
今まで飲んでいたものをすべて止めてもらい、幾つかの漢方薬の効果を1種類ずつ試していこうということからはじめました。
最初からそれなりに効果があったのですが、3つ目の漢方薬で著効を得ました。
まず手首の腫れと痛みが顕著に改善し、諸症状が軽快したのです。
以後、西洋薬も含めて薬は一切飲んでいなかったのですが、2年後に再発しました。
このときは、1種類の漢方薬だけで症状がおさまりました。
その時々の症状にあわせて幾種類かの漢方薬を試しながらよくなったケースです。
病気の治りにくさを理解している人だったので、最終的によい結果が出たのでしょう。
関節リウマチ-2 [男性 60才]
32~3才時からの関節リウマチ。薏苡仁湯(よくいにんとう:煎薬)1ヶ月間を服用して手の痛みが軽減し、炎症反応も沈静化の傾向をみせた。2ヶ月ほどでリウマチ反応が陰性化する。
5ヶ月間ほど続けたが、症状が残っている間に服用を止めてしまった。その後に症状が悪化してもまじめに服用しない。当然本人が思うような効果はなく、いつのまにか廃薬した。
関節リウマチは漢方で治ることが珍しくない病気ですが、このケースは、治す機会を本人が遠ざけた例。
調子がよくても、もう1~2年間きちんと続けていれば長年の悩みから解放されていたのかもしれないと思うと残念です。
不眠症 [男性 41才]
6~7年前より不眠が続いてイライラの症状が強い。めまいと動悸が気になる。
柴胡桂枝乾姜湯(顆粒剤)を服用して10日間くらいで少し眠れるような感じがする。
2ヶ月間ほど続けて服用し、イライラや動悸などの自覚症状がなくなり、夜もよく眠れるようになった。
西洋医学の睡眠薬は一時的に眠らせる薬です。
漢方薬は狂った睡眠のサイクルを整えて不眠症を改善し、眠れるようになる薬です。
それぞれの特徴を上手に利用すればよいのです。
この方は著効例の一つで、通常はもう少し長い経過が必要です。
不妊症 [女性 34才]
結婚後11年間の不妊症。
一度流産したのみであり、西洋医学の不妊治療に長年通っても妊娠しないので来局。
体質によって温経湯(煎薬)を継続して服用する。
5ヶ月後より桂枝茯苓丸を併用してまもなく妊娠し、無事出産した。
最近は不妊症のご夫婦が増えていますが、漢方は優れた効果をあらわします。
当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、温経湯、折衝飲などがよく使われますが、剤型による効果の差が目立ちます。
不妊の期間に関係なく、早い例では数ヶ月以内に妊娠することも稀ではありません。
しかし通常は1年前後で、遅くても1~2年くらい迄の服用で妊娠する人が多いものです。
なお、ご夫婦で漢方薬を飲んだほうがよいケースが少しずつ増えているのが気になります。
少しでも結果を急ぐ方は西洋医学と併用すればよいでしょう。
子宮筋腫 [女性 40才]
6センチ大の子宮筋腫があり、月経痛が強い。
桂枝茯苓丸料(煎薬)を続けて服用する。
2ヶ月後には月経痛の軽減を自覚するも、子宮筋腫はやや大きくなった感じがすると医師はいう。
その後1年半ほど続けて飲んで体調がよく、病院の検査で子宮筋腫がなくなっていた。
子宮筋腫が漢方薬で消えてしまうことも少なくありませんが、たとえなくならなくても、ほとんどのケースで子宮筋腫に伴う月経痛や出血過多、貧血などの症状が改善されて、手術の必要性はなくなります。
漢方薬は月経や月経に関係する臓器の異常によく奏効します。
耳鳴り・頭痛 [女性 38才]
耳鳴り、頭痛、めまいなどの症状が続き、体質に適する半夏白朮天麻湯(顆粒剤)を2週間飲んでやや症状が軽くなったが、今一つと考えて苓桂朮甘湯(顆粒剤)に変方した。
2週間後にはめまいが少し残るだけで耳鳴りと頭痛はなくなった。
さらに2週間続けて飲んで廃薬。
この方のような耳鳴りの早い治り方の確率は半々くらいでしょう。
それでも耳鳴りの治りにくさを考えれば素晴らしい確率です。
耳鳴りは一度は漢方を試してみたい症状の一つです。
糖尿病 [男性 69才]
糖尿病で、気力がない。白内障の手術も勧められている。
以前から西洋医学でコントロールしているものの、漢方薬を併用したいとのことで、八味丸料(煎薬)を服用。
血糖のコントロールがしやすくなり、体調がよいということで続けて服用する。
漢方は内臓の病気に使う機会が多いものです。
このケースは西洋医学で糖尿病のコントロールはできても、体全体の調子を整えることが難しい例です。
検査値はよいが体調はよくないというケースには、西洋医学と漢方を併用するとよいことがあります。
胆石症 [女性 42才]
10ヶ月ほど前に胆石を発見。軽い痛みがある。
健康保険適用薬を希望され、大柴胡湯去大黄(保険用顆粒)を服用。
2週間ほどで痛みはほとんど消失。
しばらく続けた後、民間薬のウラジロガシをお茶代わりに継続して利用する。
胆石症の痛みには通常、健康保険の漢方薬はあまり効かないのですが、この方はそれなりによく効いています。
一般的に効果が弱い保険用の漢方薬でも、ある程度の効果をあらわして喜んでいただけることがあります。
慢性便秘 [女性 27才]
慢性の便秘で4~5日に1度しか排便しない。下腹部が張って食欲がなくなる。
冷えの症状も強いので、当帰建中湯(煎薬)を選用する。
1週間ほどでお腹の張りはほとんどなくなり、体調がよくなる。
以後間欠的に数ヶ月間続けて便通も整い廃薬する。
女性に多い慢性の便秘は治りにくいものですが、下剤で一時的に排便できるので、多くの人が安易に考えてしまいがちです。
しかしそれでは便秘は治りません。
根気よく漢方薬を続けて飲めば、下剤が不用になります。このケースのような著効例ばかりではありませんが、不快な症状がなくなるのは早いです。
気管支拡張症 [男性 65才]
気管支拡張症で咳と痰が数年間続いている。夜中に咳き込んで苦しい。
他所で多種の漢方薬(顆粒、錠剤)を服用していてもあまり症状の改善がなくて来局した。
麦門冬湯(煎薬)を14日服用し、痰が出やすくなり、咳も減って夜眠れるようになった。
以後、2ヶ月間服用し、その後は間欠的に服用してよい調子が続く。
この病気は漢方でコントロールしやすい病気の一つです。
人により効果の出方は異なりますが、通常2~3ヶ月もあれば、症状はかなり改善されるものです。
高血圧症 [男性 75才]
165~180/100という血圧に不安を感じて、降圧剤を飲みはじめる前に相談。
釣藤散(顆粒)を服用して、約20日間で130~160/85~100になり、約1ヶ月後には125~135/80以下に落ち着く。
以後翌年の10月まで、間欠的に服用を続けるも(3ヶ月分を14ヶ月間で服用)経過はよかった。
しかし秋になって、150~160/90~100になり、釣藤散(顆粒)の服用を見直して、130台/80台の正常血圧に落ち着いた。
このようなケースもありますが、漢方で高血圧を正常化するには、通常はかなりの期間が必要です。
一般的に、血圧を目先で下げる作用は西洋医学の薬が優れています。
西洋薬で血圧を下げながら、漢方薬を併用して血圧の基本を安定させていくことによって、徐々に西洋薬が不要になることを、とりあえずの目標にしてもよいでしょう。
効果の出方にかかわらず、漢方は循環系を正常に保つ作用があり、頭痛など不快な随伴症状も改善されることが多いものです。
膠原病 [女性 64才]
数年前から関節リウマチの症状があり、全身性エリテマトージスと診断される。
十全大補湯(煎薬)を続けて服用して、何となく調子がよい感じが続くが目立った自覚症状の変化はない。しかし「悪くならないのが不思議」との専門医の評価が続いている。
膠原病に限らず、難病に指定される病気の中にも漢方が効果的なケースがいくつもあります。
権威のある専門病院よりも薬局の漢方薬が効果的というのも妙なことですが、寿元堂薬局の経験ではそんなに珍しいことではありません。
漢方と西洋医学の特徴の差の結果でしょうが、西洋医学で難治の病気を改善してこそ、漢方の存在価値が高まるのだと思います。