貴重な動物生薬~ 漢方あれこれ ~
漢方薬で使用される生薬の多くは植物ですが、動物や鉱物も昔から利用されています。
動物生薬には、地竜、蝉退、白姜蚕、土別甲、阿膠など、多くのものがあり、鉱物には滑石、石膏などがあります。
ここでは特に有名な、牛黄、熊胆、鹿茸を紹介しましょう。
牛黄(ごおう)
牛黄は高貴薬に属する動物生薬の中で最もよく使われています。
多くの製剤に配合されていますが、牛黄の効果を最も効率よく利用するためには、良質の牛黄をそのまま粉末にして飲みます。
牛黄は、牛の胆嚢、胆管中に病的にできた結石を乾燥したものです。
人間と同じように牛にも胆石ができ、その胆石を取り出して薬にしたものなのです。
1~3千頭の牛の内1頭にあるといわれる程に稀少なもので、オーストラリア、ニュージーランド、北米、南米などに産し、日本では牛黄の大半を畜産国から輸入しています。
径0.5~3cmの球形又は不定形で、その破砕面には赤褐色~黄褐色の層紋がありますが、品質の差が大きいので、良質のものを選ぶことが大切です。
牛黄にはビリルビン系色素70~76%、胆汁酸7~10%、コレステロール、アミノ酸類、その他の成分が含まれており、鎮静作用、強心作用、利胆作用、造血作用、滋養強壮作用などがあります。
漢方では、感染症などの熱性疾患で高熱、意識障害、けいれんの発作などがあるときや、慢性肝炎、小児の疳(かん)や大人の中風、高血圧症、脳卒中による意識障害、狭心症、不整脈などに効果があり、特に肝臓と心臓の機能増強を目的として頻用されるほか、体力増強や疲労回復を目的としても重宝されます。
古典には「久しく服すれば身を軽くし、天年を増し、人をして忘れざらしめる(長く飲めば、寿命をのばし、物忘れをしなくする)」と記されています。
効果を知る漢方家が、高齢になると体調を維持するために持薬として飲むことが多いのも牛黄です。
品質の良い牛黄は粉末にすると黄色みがかったきれいな黄土色をしています。
多少品質が落ちても粉末にしてしまえば違いは分かりませんが、さらに品質が悪くなると色が汚くなります。
「奇応丸」「救命丸」などの子供の薬、「六神丸」「救心」といったような心臓の薬など、日本の古くからの家庭薬にも使われています。
また肝炎、肝硬変の薬として有名な中国の薬、片子廣(へんしこう)の主剤でもあります。
熊胆(ゆうたん)
熊胆は一般に“熊の胆(くまのい)”といわれているものです。
くまのいを“熊の胃”と思っている方が多いようですが、実はヒグマやツキノワグマその他のクマ科の動物の胆汁の乾燥品です。通常、胆嚢の乾燥物の形で取り扱われます。
熊胆には、一般的に利胆、抗炎症、解熱、鎮痛、鎮静などの作用があり、次のような疾患に用いるとされています。
伝染病による高熱、痙攣や熱傷、刺傷による発熱、小児の熱性痙攣、劇症肝炎、急性黄疸型肝炎、肝性昏睡。胃・十二指腸潰瘍の激しい痛みや胆嚢の痛み。
日本では古くから家庭薬の原料などとして配合されており、主に胃腸の薬として知られています。
熊胆単体で粉末として使用され、昔から高貴薬の一つとして知られており、慢性肝炎や肝硬変など肝臓病の薬としても重宝され、牛黄などとともに利用されることが多いようです。
しかし、1975年に発効したワシントン条約によって熊が保護され、熊由来の製品の国際取引が規制された結果、益々希少なものになりました。
最近では(平成30年)では、中国の熊牧場で養殖された熊から抽出した熊胆が多く使われていますが、やはり自然の採取品とは品質が異なります。
動物生薬の例にもれず、熊の胆も品質の差が大きく、市場品には代用品の牛胆、豚胆などが多いので気をつけましょう。
寿元堂薬局では、正規に入手できるものを取り扱っています。
中でも猟師さんから入手できる熊胆は最高級品です。
鹿茸(ろくじょう)
鹿茸は中国東部やシベリアに生息するマンシュウアカジカという鹿の角です。
中国では古くから強精、強壮の漢方薬として、高麗人参とともに鹿茸が珍重されてきました。
コラーゲン、たんぱく質、カルシウム、リン、マグネシウムなど多くの成分が含まれ、発育成長の促進、造血機能の促進、強心などの作用があります。
また、小児の発育不良・筋肉や骨格の発育不良、運動機能の発育不良など成長発育の促進、神経の衰弱や病後の衰弱、貧血、心不全、男性のインポテンツや男女共に不妊症にも応用されます。
鹿茸の効果は即効的なものでありませんが、富山医科薬科大学の難波恒雄教授は「連続服用によってはっきり認められることは酷暑、酷寒の厳しい気象的条件の変化にもよく耐え得る生命力を養ってくれることである。
すなわち、漢方医学上でいう元気の活動が盛んとなってくることである」といわれています。
鹿茸はスライスして利用しますが、中国や韓国の人たちは、疲れがたまると鹿茸を配合した煎じ薬を飲みます。
これを補薬といいますが、これを飲みやすくしたものを鹿茸大補丸(ろくじょうたいほがん)といい、ストレスの多い現代人の肉体疲労や虚弱体質の改善などに幅広く利用される数少ない漢方処方の一つです。