不妊症~ 漢方を試してみたい病気 ~
新しい命を創造する妊娠は大きな喜びであります。
しかし、現在の日本では出生率の低下により少子化の傾向が続き、人口が減少に転じています。
少子化は、社会情勢の変化により価値観が多様化したことなどが大きく影響しています。
晩婚化や結婚後の出生ペースの低下、未婚の女性の増加など、いろいろな影響が考えられています。
漢方の立場では、月経不順や無月経の女性が増えていることや、不妊で悩んでいるご夫婦からの相談が多いのが気になります。
漢方は月経不順はもちろんのこと、不妊症の治療にも大きな効果をあげています。
※漢方薬を紹介する場合は、一般的に入手しやすい範囲のものに限りました。
妊娠について
結婚して、夫婦が愛の形として子供を望むのは当然でしょう。
そして、自分たちの分身が生まれることは、本当に喜ばしいことです。
西洋医学の発達によって、男性の精子と女性の卵子が受精して妊娠することや、妊娠に伴う様々なメカニズムがわかってきています。
しかし、愛する二人への神からの贈り物などというロマンチックな発想も捨てがたいものです。
それでは、もう少し詳しく妊娠を説明してみましょう。
まず、卵巣で成熟した卵子が排卵します。この卵子が卵管に取り込まれて受精を待ちます。
性交が行われると、精子が子宮、卵管へと進んでいきます。そして卵子と精子が受精します。
受精した卵子は子宮の中へ移動し、この受精卵が子宮に着床して成長を始めると妊娠が成立するのです。
正常な妊娠は女性の生理現象のひとつです。
しかし、妊婦は体調が変わりやすいので、日常の生活においても気配りが大切です。
少子化について
日本の総人口は2005年に戦後はじめて自然減少しました。
1人の女性が一生の間に産む子供の数を合計特殊出生率といい、現在の日本の人口を維持するために必要な2.07を下回った状態が続いているからです。
1975年頃から合計特殊出生率が低下する傾向が続いていますが、その理由は、未婚化や晩婚化による無産化・晩産化を生む社会的な背景が大きいのでしょう。
反面、過去では恥じなければならなかった婚前妊娠による結婚が、今ではできちゃった婚やおめでた婚などといって珍しくなくなっています。
漢方専門薬局の立場では、人間の生殖能力の衰えを感じております。
冷え症、月経不順、月経困難症、子宮内膜症、無月経、不妊症などの改善を日常的に行い、漢方の効果のあらわれ方をみていると、興味深いものがあります。
どの病気や症状もよくなっていく過程で、月経に関する諸症状が改善されるとともに、ほとんどの人の体調が整っていきます。
そうして不妊症の人も妊娠する可能性が高まるのです。
このような経験を積み重ねていると、人間が少しずつ虚弱になってきていると感じざるを得ないのです。
漢方では
西洋医学に産科や婦人科があるように、漢方では女科などという分類で、女性特有の病気に対応しています。
例えば、江戸時代の処方集「古今方彙(ここんほうい=1686年)」の女科には、調経、経閉、妊娠、小産、産育、産後、婦人諸病など12の項目があり、166の処方が収載されています。
その中で妊娠にもっとも関係する、調経(月経不順を整える)、経閉(無月経)、崩漏(過多月経)、妊娠の項では、それぞれに17、10、18、29種類の漢方処方が載っており、それぞれの不調に対して体質と症状にあわせて適切に対応できるようになっています。
また、「方輿輗(ほうよげい=1853年)」では、目次の最初に婦人方の項目があり、妊娠諸疾、臨産生後などが取り上げられており、著者の有持桂里が産科を重視していたことが伺われます。
中国の古典「金匱要略(きんきようりゃく=後漢・3世紀前半)」にも、胎児の発育をよくする薬、妊婦の不調を改善する薬、産後に飲む薬などのほか、不妊治療や流産防止の薬なども載っており、現在も効果的に使われています。
不妊症
正常な夫婦生活があって妊娠を望みながら、二年以上妊娠しない状態を不妊症といいます。
以前は3年という期間でしたが、現在では、避妊をしない夫婦の場合、80%が1年間で、90%以上が2年間で妊娠することがわかっているので期間が短くなったのでしょう。
ですから、不妊症に悩む夫婦の割合は、計算上では、10組に1組ということになります。
妊娠の経験が一度もない場合を原発性不妊症といい、妊娠の経験があってもその後二年以上妊娠しない場合を続発性不妊症といいます。
不妊の原因
昔は、不妊は主として女性の責任だと考える風潮がありました。
しかし、西洋医学の進歩によって、不妊の詳細がある程度明らかになってきています。
その結果、不妊は女性側と男性側あるいは男女双方に原因があるものがあり、男性側を原因とするものも意外に多く、約3割もあることがわかっています。
しかしなお、男女共にこれという不妊の原因がみつからない機能性不妊といわれるものも、かなり多くの割合を占めていると考えられています。
そして、女性側の原因としては、排卵障害、卵管、子宮、子宮頚管などの異常があり、男性側の原因は、精子の数が少ないか運動率が悪いケースがほとんどです。
WHO(世界保健機関)によると、男性側に原因があるものが24%、女性側に原因があるものが41%、男女共に原因がある場合が24%、原因が不明なものが11%になっています。
不妊と漢方
中国明代の名医、王肯堂(おうこうどう)は、その著「女科証治準縄(じょかしょうじじゅんじょう=中国・1602~07年)」の中で、「医の上工は人の子なきに因って、男を語る時は則ち精を主となし、女を語るときは則ち血を主とし、論を著し方を立て、男は以て腎を補うを要となし、女は以て経を整えるを先となす。」と述べて、上手な医師は男性に精力をつけ、女性の月経を整えることによって妊娠を促すといっています。
漢方で男性の精力を高めるということは、当然精子の数を増やし、運動量を高めます。
このことは一般的な漢方薬について西洋医学的な手法で証明されておりますが、私たち専門家が使う漢方薬は、より強力で効果的です。
また、「求子の法は調経より先きなるはなし」と、女性の月経を整えることの大切さを述べており、「毎に婦人の子なきものをみるに、その経は必ず或は前きだち、或は後れ、或は多く、或は少なく、或は将に行(め)ぐらんとして痛をなし、或は行ぐりて後痛をなし、或は紫、或は黒、或は淡、或は凝って調わず、・・・」と続けています。
漢方はこれらの症状を、無理なく上手に治します。
漢方には西洋医学の病名分類はありません。
漢方の考え方で漢方薬を使って病気を治すのです。
ですから、漢方で調経して改善する症状のなかには、不妊の原因になるかもしれない子宮内膜症なども含まれるでしょうし、表面にはあらわれない生殖器の異常やホルモン異常なども含まれます。
漢方は、調経を目的とすることによって、結果的に排卵障害や卵管の機能異常、子宮頸管粘液の不全、受精障害や着床障害などを治すのでしょう。
漢方に取り組んで、いつの頃からか「本人が自覚しない月経異常」が意外と多いことに気がつきました。
このような人には、治したいと思うような月経の不調はなく、西洋医学の検査でも異常はみつかりません。
しかし、何らかの体調不良を漢方で改善する過程で月経がよりよく整っていきます。
このことでもわかるように、西洋医学の検査で全てのことがわかるわけではありません。
検査の結果を重んじながらも、体調を整えていくことを素直に考えることも大切ではないでしょうか。
寿元堂薬局では
寿元堂薬局の経験では、漢方は女性の月経に関する異常を改善するには、たいへん優れた方法だと思います。
器質的な障害がない場合、適切な漢方薬を選択して数ヶ月間も様子をみれば、月経周期や経血量が次第に整っていくのがわかりますし、月経痛も軽減し、経血もきれいになっていきます。
最近の若い女性には、経血の色がきれいでなく、血塊がみられることが多いようですが、次第にきれいになっていく様子を聞くのは本当に嬉しいものです。
さて、月経不順や月経痛などの症状を治すことは、ある程度の期間が必要なだけで、難しいケースは希です。
また、子宮内膜症や卵巣膿腫などが治ることも少なくありません。
たとえ無月経でも根気よく漢方薬の服用を続ければ改善する可能性が十分にあります。
西洋医学のホルモン療法では、体外からのホルモンの補充によって一時的な効果はあらわれるでしょう。
しかし、体質的な変化を期待することはできませんし、経血の状態さえ改善することはないでしょう。
さらに、ホルモン療法を続けて、効果が出なくなってしまったケースに、漢方で効果をあげたことも何例かあります。
漢方での妊娠例の中には、漢方薬を服用しはじめてすみやかに基礎体温の乱れが正常化に向かったケースや、長年にわたって西洋医学の不妊治療を受けた後、漢方に切り替えてわずか数ヶ月で妊娠したことなど、著効例は数多くあります。
しかし、徐々に体調が改善されて妊娠するまでに、一般的には一年位まで、長くても二年くらい迄の期間を考えておけばよいでしょう。
卵管の閉塞や、重度の無精子症などの決定的な器質的障害がない限りは、妊娠の可能性は十分にあると考えています。
環境ホルモンについて
環境ホルモンは、生物の内分泌機能に影響を及ぼす化学物質のことです。
ほとんどの殺虫剤やプラスチックなどの化学製品に含まれており、燃えると大気中に発散します。
また熱湯を注ぐことでプラスチックの容器から溶け出すこともあります。
大気中や食品などから体内に入ると、生殖器官や遺伝子の働きが乱されます。
環境ホルモンが精子の数の減少、性欲の減退、流産など、様々なかたちで生殖に深刻な悪影響を与えている可能性が高いのです。
食品はできるだけ無農薬のもの、シャンプーや洗剤などは自然素材のものを選び、飲食物にはプラスチック製の容器は避けるなどの工夫が必要になってくるでしょう。