子どもと母親が同じ漢方薬を同時に服用する
「子母同服」という興味深い方法の考察
漢方薬にもさまざまな服用方法がありますが、その中の一つに「子母同服(しぼどうふく)」という興味深い方法があります。
子どもと母親に同じ漢方薬を同時に服用させる飲み方です。
子母同服の記載がある処方はいくつかありますが、その中で有名なものは抑肝散(よくかんさん)という漢方薬でしょう。
以前、抑肝散は認知症に効果がある薬として話題になったことがあります。
ですから、「抑肝散は認知症の薬」として認識している人が少なくないかもしれません。
しかし、そんな抑肝散はもともと中国の明の時代に編纂された小児科の書物「保嬰撮要(ほえいさつよう)」に載っている薬です。
ここに、「子母同服」と飲み方が指定されているのです。
イライラして落ち着かない、暴れたり夜泣きがあったりなど、癎(かん)が高い子どもの症状に用いられてきました。
同じ屋根の下で暮らす親子は、良くも悪くも互いに思考や行動など影響し合います。
子が不調の時に親の精神状態が不安定であれば、子どもはそれを敏感に感じ取ってまた不調になりやすくなる。親はさらに疲弊し、子も親も悪循環にはまっていく…。
それを経験的に察知した先人達は、子母同服という飲み方にたどり着いたのだと思います。
また、子母同服とは言え、母親だけではなく同居している家族はお互いに影響を受けやすいため、場合によっては母親以外の家族が同服した方がよいケースもあるでしょう。
さて、後に抑肝散は大人にも使用されるようになり、記録にも残されています。
江戸時代の医学書「方読弁解(ほうどくべんかい)」には、「大人、小児ともに虚症の癎に用いる」との記載があり、時代とともに先人達の経験と工夫によって、薬の使い方に変化があったことが読み取れます。
そして、現在でも子どもの夜泣きや癎症、チック症はもちろん、大人でもヒステリー症状や不眠などで悩む場合に効果を発揮しているのです。
ちなみに冒頭で「抑肝散が認知症に効果的」と話題になったことをお伝えしましたが、認知症であれば抑肝散が効果があるというものではありません。
これまでの抑肝散の使い方の歴史にあるように、癎が高い状態、怒気が強くなるような認知症の場合には、効果があることが多いようです。
漢方薬の本来の効果が期待できるのは、体質や症状に合わせて適する漢方薬を選んでこそ。
信頼できる専門家にしっかり相談しながら利用しましょう。