大切なのは理屈でなく目の前で起きていること
「漢方薬は病気の原因のどこを治すの?」「この薬は、どのように作用して病気が治るの?」など、漢方薬の効果の根拠を尋ねるような質問に対して、困ってしまうことが少なくありません。
漢方薬の効果は、現代の科学で解明されているわけではないからです。
現在の主流医学である西洋医学は、客観的な科学的根拠に基づいて治療をしていきます。
一方で、漢方は科学的な理論よりも、これまでの経験を重視して薬を選んでいきます。先人たちの智恵と工夫により発展した経験の医学だからです。
例えば、桂枝湯(けいしとう)という漢方薬があります。中国の後漢時代(210年頃)に著された『傷寒論(しょうかんろん)』という医学書に載っている処方です。
桂枝湯は多くの漢方薬の中でも基本的な処方の一つで、虚弱な人の風邪症状に用いられることが多い薬です。桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の5種類の生薬から構成されています。
この桂枝湯を基本にしてさまざまな工夫がなされ、多様な漢方薬が作られています。
その中の一つに桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)という漢方薬があります。桂枝湯の芍薬の量を増やした処方で、便秘や下痢などの腸の具合を整える薬になるのです。
このように、配合される成分の量を少し変えるだけで、全く違う効能が表れるとは非常に不思議なものです。
さて、突然ですが皆さんの多くは氷が滑るものだという認識をお持ちだと思います。しかし、「なぜ氷が滑るのか」ということを考えたことはあるでしょうか。
実は、この原理はこれだけ発展した現代の科学をもってしても、長い間完全には解明されていませんでした。解明されたのは2018年のこと。
このように、誰もが経験により当たり前に知っていることでも科学的に解明されていないことはたくさんあります。
いや、解明されていないことの方が多いと言っても過言ではないでしょう。
自分の専門ではない分野では、つい理屈に踊らされてしまいがちです。
しかし、大切なのは理屈ではなく目の前で起きていることです。
体質や症状によって、適する漢方薬や改善していく期間が異なるのは当たり前です。
理屈ばかり追い求めるのではなく、もっと素直に改善の有無をできるだけ客観的に観察するとよいでしょう。