Q 最近、夜、布団に入ってもなかなか眠れません。あまり睡眠薬に頼りたくないので、漢方薬を飲んでみようかと思っていますが、眠れるようになりますか。 (65歳・女性)
A 蒸し暑さが増してくるこれからの時季、この方のように睡眠不足気味の人が増えているのではないでしょうか。夏の寝苦しさが不眠の習慣化につながることがあるので注意が必要です。
不眠症にはさまざまなタイプがあります。「布団に入っても眠れない」「長い時間寝ているはずなのに、疲れが取れない」「夢ばかり見る」など、人により症状は異なります。
よく聞くのが、「眠ろうとしても眠れない」という相談。高齢者の場合は、夜中に何度も起きたり、朝早く起きる傾向が見られます。
昔から漢方では、不眠症にさまざまな薬を用いてきました。現代でもよく使われる薬を紹介しましょう。
- 酸棗仁湯(さんそうにんとう) 漢方の長い歴史の中で、酸棗仁湯という名前の漢方薬はいくつもありました。現在よく使われる酸棗仁湯は、中国・後漢時代に著された「金匱要略(きんきようりゃく)」という書に載っているものです。「疲れ切って眠れない」「急に胸騒ぎがして眠れない」「気に病んで眠れない」などの症状に使われます。人によっては、西洋医学の睡眠剤と同じようにすぐに眠れることもある優れものです
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) 体力のある人で便秘傾向があり、胸や腹のあたりで動悸を打つような人の不眠症に
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 精神安定作用、鎮静作用で気分を落ち着かせ、不眠症に効果をもたらせます
次のような例もあります。
不眠以外の相談で来られた人が、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲んだら、不眠症気味だったのに見事に眠れるようになったのです。
通常は飲めば眠れなくなることもある補中益気湯ですが、漢方薬を適切に使えば、このようなこともあるという一例でしょう。
西洋医学の睡眠薬は飲んですぐに眠れるという効果は素晴らしいのですが、いつまでたっても不眠そのものは治りません。
一方、漢方薬には西洋薬に匹敵するような即効性はありませんが、一時しのぎを続けるのではなく、偏った睡眠を改善し、自然に眠れるようにしていきます。
中には、漢方薬を飲んで、西洋薬と同じような効き方をすることもあります。しかし、それは〝結果〟であって、最初から期待するべきではありません。
西洋薬と漢方薬を上手に併用していけば、最終的には、西洋薬、漢方薬のどちらも飲まないで眠れるようになる可能性が高いでしょう。試す価値は十分あります。