Q 布団に入っていざ寝ようとしても、すぐには寝られなくなってしまいました。現在、医師から処方してもらった睡眠導入剤を毎日飲んでいます。漢方薬に切り替えたいのですが、効果のある漢方薬はありますか。 (62歳・女性)
A 不眠症で一般的に多い相談が、眠ろうとしても寝付けないタイプ。また、高齢者に多いのが、夜中に目が覚めたり、朝早く目が覚めたりするタイプです。
夏の寝苦しさやリウマチの痛みで眠れないなど、環境や病気が原因の場合は別として、慢性的な不眠症には、その人の精神の状態が強く影響します。
江戸時代中期の名医、香月牛山(かつきぎゅうざん)先生は、その著書「牛山活套(かっとう)」で、「不眠の多くは、動悸(どうき)、不安、胸騒ぎなどを伴うことが多い。心の気が不足するからだ」と述べています。
また、江戸時代後期の本間棗軒(そうけん)先生は、著書「内科秘録」で次のように述べています。
「不眠は心の病にして、細かいことが気になる症状の一つである。仕事、病気、対人関係などで憂わなくてもよいことを憂い、恐れるに足らないことを恐れ、常に思慮を繰り返して止まない。そうすると精神がだんだんに耗散して眠れなくなる。眠れないとますます思慮することを続けて、ますます精神の状態が悪くなる」
では漢方では、どのような薬を使ってきたのでしょうか。
寿元堂でまとめている資料をざっと眺めただけでも、不眠症の改善に使える漢方薬は80種類以上にも上ります。
その中から、現代でもよく使われる薬を簡単に紹介しましょう。
- 酸棗仁湯(さんそうにんとう) 疲れ過ぎて眠ることができないタイプの不眠や、平素から疲れやすい虚弱な体質の人の不眠症に使われます。タイミングがよければ、西洋医学の睡眠剤と同じようにすぐに眠れることもあり、〝漢方の睡眠薬〟とも言われることも
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) 体力のある人で便秘傾向があり、胸や腹のあたりで動悸を打つような人の不眠症に
- 温胆湯(うんたんとう) 眠れてもいやな夢を見て十分な睡眠がとれないような人に
西洋医学の睡眠薬は飲んですぐに眠れるので、一時しのぎの効果は素晴らしいのですが、いつまでたっても不眠そのものは治りません。
一方、漢方薬には西洋薬に匹敵する作用を持つ薬はありませんが、偏った睡眠を改善し、自然に眠れるようにしていきます。
その人のそのときの状態に合った漢方薬を上手に利用していけば、最終的には、西洋薬、漢方薬のどちらも飲まないで眠れるようになる可能性が高いでしょう。試す価値は十分にあると思います。