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さりお 寿元堂薬局のここが知りたい漢方

心の病気と漢方薬

心の病気は江戸時代の書物にも記され漢方薬が使われていた
漢方では病名ではなく症状や体質、状態に合わせて薬を選ぶ


日が沈むのが早くなり、本格的な冬に向かっていく時季、寂しい気持ちになってしまうことも多いものです。

ここ数年のコロナ禍で生活が一変したことや、SNSやネットの普及、女性の社会進出などによる社会背景の急激な変化の影響なのか、年代を問わず心の病気で悩む人が増えています。

厚生労働省によると、心の病気で医療機関にかかっている患者数は近年大幅に増えており、2017年には420万人にのぼりました。これは日本人の約30人に1人の割合で、一生の間に5人に1人は心の病気にかかるとも言われています。

交通事故、親しい人の死、過労など、肉体的・精神的な負担がかかる出来事をきっかけに、調子を崩してしまうことも珍しくありません。
心の病気というと特別なイメージがあるかもしれませんが、誰にでも起こりうるものなのです。

漢方では、胸騒ぎがして不安を感じるような状態を「怔忡(せいちゅう)」といいます。

1000種類以上の漢方処方が収載されている江戸時代の処方集「古今方彙(ここんほうい)」には、「怔忡」の項目に

「気持ちがそわそわして落ち着かず、動悸も打ち、びくびくする。胸が騒いでイライラする。気分が穏やかでない」

と記載があり、

「雷の嫌いな人が雷雲を見つけて、雷が鳴ることを恐れている時のような心持ち」

と具体的な例も書かれています。

他にも、現在のうつ状態に近いものを「欝(うつ)証」、癎が高い「癎(かん)証」、驚きやすくてびくびくしてしまい、動悸があるような「驚悸(きょうき)」、眠れなくなってしまう「不寐(ふび)」などに分類し、それぞれに対応していました。

これらの症状は、現在でも心の病気で悩んでいる人の状態にあてはまるものが多く、適切に対応すれば、漢方薬で奏功するものが多くあります。

西洋医学の分類は非常に複雑で病名も多くあります。
しかし、漢方ではあまり病名にこだわることはなく、症状や体質を考慮し、全身の状態に合わせて薬を選びます。

心の病気の中には、生まれつきの性質が関与しているものもあり、十分に効果を実感できるまでに時間がかかることもあります。
漢方薬の効果の出方は人によって異なりますが、1度は試してみる価値があるでしょう。

心の病気についても、西洋医学の薬と漢方薬の効き方の特徴があり、併用するとよい場合もあります。

それぞれの専門家に相談しながら、上手に適する薬を探しましょう。