医薬品として、物忘れに対する効能を取得した「遠志(おんじ)」という生薬(しょうやく)が、最近注目を浴びています。
遠志は、ヒメハギ科のイトヒメハギの根を薬用部位として用います。精神を安定させる作用に加え、強力ではないものの去痰(きょたん)作用もあるとされています。
漢方薬は数種類の生薬から構成されるため、遠志を単独で用いることはありませんが、物忘れの症状に用いる漢方薬の中に、遠志を含むものがあるので紹介します。
代表的なものでは「帰脾湯(きひとう)」という薬があり、宋の時代の医学書『厳氏済生方(げんしさいせいほう)』に載っています。しかし、当初の帰脾湯には、遠志が含まれておらず10種類の生薬で構成されていました。
遠志は明の時代以降に、当帰とともに加えられたのです。それが現在の帰脾湯の基になっており、遠志、竜眼肉(りゅうがんにく)、酸棗仁(さんそうにん)など精神に作用する生薬をはじめ、実に12種類もの生薬から構成されています。
虚弱体質で貧血傾向にあり、不安、健忘、不眠などの症状がある人に適することが多い薬で、月経不順、子宮出血などにも用いることもある応用範囲が広い薬です。
物忘れに対する漢方薬は帰脾湯だけではなく、その中に遠志を含まない漢方薬も多数あります。
漢方薬を試す際には、遠志の効能にこだわりすぎず、専門家に相談するのがよいでしょう。