Q いつもこの漢方コラムを興味深く読んでいます。ところで、タイトルにある「陰陽虚実」とはどういう意味でしょう。漢方用語であることは想像がつきますが、はっきり分からないので気になっています。 (58歳・男性)
A 漢方の専門用語は、一般の方には聞きなれないものが多く、その意味もまた抽象的なものが多いので、なかなか浸透しません。私も普段からよく「陰陽虚実とは何か」と尋ねられます。今回は大勢の皆さんが感じているこの疑問に応えたいと思います。
漢方では、人の体を総合的にとらえ、病気は全体のバランスが乱れたために起こると考えます。乱れたバランスを正常に戻し、統制の取れなくなった体を元の状態に戻すことが、漢方治療の目的です。
「陰と陽」、「虚と実」もまた、どちらに偏りすぎても良くなく、中庸になるように漢方で調整するというわけです。
「陰」に偏った症状を「陰証」といいます。陰証は、症状が静的、消極的で、内に潜んで隠れ、外に表れにくく、寒冷の状態を呈しています。多くの場合、手足が冷え、顔面蒼白(そうはく)、気分沈うつで、活気がなく、機能低下の状態です。
一方、「陽」に偏った症状を「陽証」といいます。陽証は、病の症状が活動的で、外に表れやすく、熱気を呈しています。多くの場合、炎症、充血、発熱などの活発な熱性症状を起こし、機能亢進の状態です。
また「虚」に偏った体質を「虚証」といいます。病気に抵抗する体力が乏しくなった状態で、容易に体の内部まで病気が達する状態です。平素、虚弱な人は虚証を表しやすいといえます。
「実」に偏った体質は「実証」といいます。抵抗力は旺盛で、病気に抵抗する体力が充実している状態です。平素、体が頑強な人は、病気になっても実証を表しやすいといえます。
そして漢方では、個人の陰陽虚実の状態を判断して、薬を選ぶのです。
例えば虚証では補剤と呼ばれる漢方薬で補い、実証では瀉剤(しゃざい)と呼ばれる漢方薬で空かして、中庸に近づけ、自然治癒力を高めて病気を治すのです。
西洋医学では病名ごとに使う薬がおおかた決まるのに、漢方医学では、体質に応じて随分と細かく漢方薬を使い分けるのが大きく異なる点です。
また、陰証の場合は虚証であることが多く、陽証の場合は実証であるケースが多くみられます。
例えば、糖尿病には、西洋医学では一律に血糖降下剤が使われますが、漢方では陰虚証には八味丸を、陽実証には大柴胡湯を、と使い分けます。
漢方薬の使い分けは、熟練した専門家ほど多く知っているものです。