Q のどに何かが詰まっているような感じがして病院で調べてもらいましたが、異常なしと言われました。気になります。 (31歳・女性)
A 「のどに何かが詰まっているような気がする」「のどに玉のようなものがあるような感じがして、飲み込みたいけど飲み込めない」…。このようにのどの感覚に異常を感じている人は意外に多いものです。
私の薬局に来られる人の中にも、のどの違和感を感じているという人が多く、女性が圧倒的多数を占めています。それも春の新芽が出る、精神的に不安定になるような季節の変わり目に多いように感じます。
のどの異常は、食道がんやポリープなどの病気が隠れていることがあるため、まずは耳鼻咽頭科で検査してもらいましょう。それで異常が見つからなかったら、漢方の出番です。
先日出版した本「誤解だらけの漢方薬」でも紹介したように、相談者のような病態は、漢方の古典で「梅核気(ばいかくき)」という病名が付けられています。
実際には何も引っ掛かっていないのに、まるで梅の種がのどにつかえているような状態という意味です。あぶった肉がのどに張り付いているようだという意味で「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」ともいわれています。
梅核気の重い症状が「奔豚(ほんとん)」です。気の塊が下腹部からのどまで突き上がってくるような症状で、中国の書物「諸病源侯論」には、「気が(下から)上に遊走することは豚の奔(はし)るが如し。故に奔豚という」と掲載されています。ちなみにこの時代の豚は猪を指しています。
梅核気の症状に昔からよく使われてきたのが、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。漢方の古典「金匱要略(きんきようりゃく)」には「婦人が咽(のど)の中に炙(あぶ)った肉が引っかかっている感じがするなら、半夏厚朴湯が良い」と記載されています。
半夏厚朴湯は、主薬の半夏(はんげ)と厚朴(こうぼく)を中心にして、茯苓(ぶくりょう)、蘇葉(そよう)、生姜(しょうきょう)を組み合わせたもの。
矢数道明先生の「漢方処方解説」には、「半夏は心中、胃内の停水を去り、気をめぐらすものであり、厚朴はよく気を開いて半夏の働きを助ける」と書いてあります。梅核気のほかにも、妊娠中のつわりや更年期障害に使うこともある薬です。
半夏厚朴湯以外にも、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)など、体質や症状に応じていろいろな処方が使われます。専門家によく相談しましょう。