Q 娘が遠方に引っ越してあまり連絡が来なくなり、それがきっかけで不安感が強くなりました。胸がどきどきして、夜もよく眠れません。 (68歳・女性)
A 自律神経には2種類あります。一つは、活動しているときや緊張・ストレスを感じているときに働く「交感神経」。もう一つは、眠っているときやリラックスしているときに働く「副交感神経」です。
交感神経が活発になると副交感神経が静まり、副交感神経が活発になると交感神経が静まります。この2つがシーソーのように絶妙なバランスを保つことで体が正常に働きます。
ところが交感神経ばかり働き続けるとこのバランスが崩れ、動悸(どうき)、倦怠(けんたい)感、めまい、イライラ、頭痛、不眠、肩凝りなど、いわゆる不定愁訴(しゅうそ)が現れてきます。
自律神経は体のあらゆる器官にかかわっているので、体のあちこちに支障が生じるのです。疲れがたまっている人、日ごろから不安感が強い人、神経質な人がなりやすい傾向が見られます。
多様な症状が現れる自律神経失調症の治療は、漢方の得意分野の一つです。代表的な漢方薬を実証と虚証に分けて、いくつか紹介しましょう。
【実証の薬の例】
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) 比較的体力があり、イライラや不眠、不安が強く、動悸を感じるような人に
- 大柴胡湯(だいさいことう) 体力があり、便秘がちで、頭痛、めまい、耳鳴りなどがある人に
【虚証の薬の例】
- 加味逍遥散(かみしょうようさん) 疲れやすく比較的虚弱なタイプで、肩こり、頭痛、めまい、不安、不眠で悩んでいる人に
- 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) ・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう) 体力がなく血色が悪く、貧血があり、疲労感が強いタイプで、動悸、息切れ、不眠などの症状のある人に
自律神経失調症以外にも心の働きが影響する病気がありますが、漢方には当然のことながら、不安障害やパニック障害といった西洋医学の病名はありません。
しかし、古典にはいろいろな精神症状が記録されています。先日、岡山リビング新聞社から出版した拙著「誤解だらけの漢方薬」にもう少し詳しく書きましたが、西洋医学の病名にかかわらず、体質と症状に合った漢方薬を使うことが大切です。
せっかく漢方薬を飲み始めて回復の兆候が見えてきても悪い兆候ばかりに注目して落ち込んでいる人がいます。
しかし、それは自分で自分の足を引っ張るようなもの。もっと大きな気持ちで構えましょう。