Q 風邪のとき葛根湯をよく飲むのですが、パッケージの効能を見ていると、不思議に思うことがあります。感冒、肩凝り、筋肉痛などは分かるのですが、漢方の本によっては、結膜炎、乳腺炎、じんましん、神経痛などにもよいと書いてあります。風邪とじんましんって全然違うのに、なぜでしょう? (34歳・女性)
A 西洋医学では、一つの病気、一つの症状に対して薬が用いられます。糖尿病には血糖降下剤、高血圧には血圧降下剤といった具合です。複数の病気にかかっている人は、複数の薬を飲むことが普通でしょう。
ところが、漢方薬は違います。漢方薬では、その人の体質が偏っているから病気を発症するのであって、偏りを正せば病気も治ると考えます。基本的に一種類のみの薬を用い、体質を正せば、複数の病気もいっぺんに治ることがあるのです。
例えば、冷え症の女性に多い月経不順と主婦湿疹は、冷えを取る温経湯(うんけいとう)という漢方薬のみで治るケースを私は何度も見てきました。腰痛持ちの糖尿病患者が、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)という漢方薬だけでよくなることもあります。
このように、漢方薬は、一種類の病気だけに用いられるものでは決してないのです。
さて、この方の質問は、葛根湯の効能についてです。
葛根湯が風邪の引き始めによいと聞いたことがある人はいるでしょう。そのこと自体は正しいといえます。
しかし、葛根湯の正しい用法と効能は、少しニュアンスが違います。
葛根湯は、しっかりした体格で体力がある実証の人の、発汗を伴わない炎症やアレルギー症状に用いるものです。したがって、頑丈な人の風邪の初期症状のほか、結膜炎やじんましんにもよいということになるのです。また、体の弱い人は葛根湯を飲むべきではないのです。
余談ですが、漢方の効果の不思議をもう少し紹介しましょう。
桂枝湯(けいしとう)という漢方薬があります。構成生薬は、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、太棗(たいそう)の5種類で、その分量も決まっています。風邪などの発熱性疾患に使われます。
この桂枝湯の芍薬の分量を1・5倍に増やすと、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)という便秘や下痢などに使われる漢方薬になるのです。
構成生薬の分量を変えるだけで、これだけ劇的に効能が変わることは、西洋薬では考えられません。生薬が持つ複雑の効能が影響し合って、漢方薬は効果を発揮するのです。