Q 漢方薬に興味があり、パッケージに表示されている生薬の成分をよく見ます。最近気がついたのですが、全く違う効能の漢方薬でも、入っている生薬が似ている場合があるのです。なぜでしょうか。 (52歳・男性)
A よくお気づきになりましたね。
おっしゃる通り、生薬の成分がよく似ているのに、効能が全く違う漢方薬はたくさんあります。
ひとつ例にとってご紹介しましょう。
桂枝湯(けいしとう)という漢方薬があります。
これは、体の弱い人の風邪薬です。その成分は、桂枝4.0g、芍薬(しゃくやく)4.0g、甘草(かんぞう)2.0g、生姜(しょうきょう)1.0g、大棗(たいそう)4.0gの5種類です。
ところが、この中の芍薬の量を2g増やしただけで、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)という全く別の漢方薬になり、便秘や下痢などの腸の具合を整える薬になるのです。
さらに、桂枝湯に厚朴(こうぼく)と杏仁(きょうにん)を加えると、桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうしとう)という漢方薬になり、気管支炎、喘息の薬効が表れます。
また、桂枝湯に朮(じゅつ)、附子(ぶし)を加えると桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)という神経痛、リウマチの漢方薬になります。
竜骨(りゅうこつ)、牡蠣(ぼれい)を加えると桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)で、これはノイローゼなどに効く漢方薬です。
このように配合される成分の量や種類を少し変えるだけで全く違う効能が表れるとは、全く不思議なことです。
また、同じ生薬でも使う温度によって効能が変わる漢方薬もあります。
中国の明時代の漢方の書「万病回春」に酸棗仁湯(さんそうにんとう)という漢方薬が書かれています。この薬は、冷まして飲むと不眠症の緩和に役立ちますが、逆に熱くして飲むと嗜眠症(しみんしょう)に功を奏し、眠りを止めるのです。
漢方薬は、古代の中国医学から発し、日本で独自の進化を遂げました。先人の経験と工夫が重ねられ、進化してきたため、西洋医学の薬とは考え方が全く異なります。
例えば、病気の原因も、内因・外因・不定内因に分類されます。
内因は七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)によるもの、外因は六淫(寒・暑・燥・湿・風・熱)によるものです。不内外因とは自然の理にそむくもので、飲食の不摂生(飢餓・飽食)、声の出しすぎ、心身の過労、不規則な生活などが挙げられます。
複雑な原因から来る症状を、複雑な生薬の混合で自然治癒を促す漢方薬。今の科学をもってしてもなぜ効くのか説明できず、今後の研究が待たれるところです。