もしかして前立腺肥大症?
Q トイレで小便がなかなか出ず、出ても勢いがないので時間がかかります。前立腺肥大症ではないかと思います。 (56歳・男性)
A 年をとって、おしっこの勢いが衰える男性は多く、その原因の多くが前立腺肥大症です。
前立腺とは、精液をつくる器官であり、男性のみが有するものです。年齢と共に前立腺のホルモンバランスが崩れて肥大化すると、前立腺の内部を通る尿道が圧迫されて、おしっこが出にくくなります。これが前立腺肥大症です。
実に、50歳代で約半数、80歳代で約80%の男性が前立腺肥大症であるといわれています。
初期には、尿に勢いがなく、夜間頻尿、下腹部不快感などの自覚症状が現れます。進行すると、排尿困難が強まり、残尿を感じ、いきまないとおしっこが出なくなります。さらには尿閉が生じ、尿失禁を起こすようになります。
初期症状であれば、治療は必ずしも必要ではありませんが、ひどくなると尿がまったく出ずに腎機能障害や尿毒症を発症することもあるので、あなどれません。
いずれにせよ、医療機関で前立腺がんでないことを確認しておいたほうがよいでしょう。
漢方には、得意とする症状もあれば、それほどでもない症状もあります。この前立腺肥大症は漢方の得意分野であり、私の薬局でも相談件数が多い症状のひとつです。
漢方では、足腰が弱く、冷えや腰痛があり、体力が衰えて元気がなく、夜間に何度もトイレに行ったり尿が出にくいような状態を「腎虚(じんきょ)」といいます。まさに前立腺肥大症に近い状態で、このような人にまずよく使われ、効果を挙げている漢方薬が「八味丸(はちみがん)」です。
八味丸は、腎気丸、八味腎気丸などとも呼ばれ、その構成生薬は、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂枝(けいし)、附子(ぶし)の8種類です。
八味丸は、前立腺肥大症に限らず、腎虚の人の脳出血、高血圧症、糖尿病、腎炎、ネフローゼ、膀胱炎、緑内障、白内障、腰痛、神経痛、脚気、陰萎、眼底出血、老人性掻痒症、難聴、耳鳴りなどにも使われます。
八味丸のほかにも、さまざまな漢方薬が前立腺肥大症に使われます。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、六味丸(ろくみがん)、猪苓湯(ちょれいとう)、五淋散(ごりんさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、騰龍湯(とうりゅうとう)などがあります。排尿困難があるけれど治療を受けるほどでない、という方にも漢方薬の効果を試してほしいものです。