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さりお 寿元堂薬局のここが知りたい漢方

メディアの報道と漢方

情報を見極めるスキルを高めて
メディアの報道をうのみにしないことが大切です


いつの頃からか、情報過多の時代に突入し、漢方についても、多くのメディア取り上げられています。
幸いなことに、〝漢方〟という言葉が身近になり、漢方薬の消費は増え、漢方を全否定する人は減りました。

しかし、漢方の伝統の継承については、十分な報道がされているとは思えません。過去に気付いたことの一部を紹介してみます。

私が初めてメディアを身近に感じたのは、尊敬する京都の先生が書を出された時です。
その先生は、漢方の普及を目的として、漢方での成功例だけでなく、失敗例も含めてまとめたかったけれども、出版社が許してくれなかったという裏話を教えてくれました。

1976年には、わずか42種類の漢方製剤が健康保険で飲めるようになっただけで「漢方薬が健康保険で飲める」とメディアが伝えました。それ以降は、あたかも全ての漢方薬が健康保険で飲めるなどという風潮が広がりました。

なお現在では、148種類の漢方製剤に健康保険が使えますが、まだまだ足りないと感じます。

1996年には小柴胡湯(しょうさいことう)という漢方薬が重篤な副作用を起こしたとメディアが大きく取り上げました。これは、不適切な使い方ゆえの結果なのですが、小柴胡湯が悪者扱いされました。

「漢方薬は安全だ」と思い込んでいた人たちに「漢方薬に副作用がある」という伝え方はインパクトがあったのでしょう。詳しい漢方家は、小柴胡湯の〝使い方の誤り〟に気付いていましたが、その事実は報道されていません。

また、20年程前、漢方についてのラジオの電話相談で、「坐骨神経痛には漢方薬は効かない。整形外科に行けばよい」とか「てんかんには漢方薬は全く効かない」などと事実ではないことを答えている有名大学の漢方の先生さえいました。

最近のメディアでも、簡便な漢方の効果のみを強調したり宣伝したりするだけで、漢方の複雑さを伝える報道は少ないと感じています。

本来の漢方を知る人は未だに少数です。
漢方の真の普及には、受け狙いではなく、責任のある報道が必要です。

読者や視聴者は、メディアの情報をうのみにせず、主体的に読み解き活用する力をつけていくべきでしょう。多面的な角度から情報を集めたり専門家から聞いたりして情報を選別するスキルを高めていきたいものです。

うわべだけの漢方の知識が一般化し、〝漢方を知らないことさえ知らない人〟が増えているのが心配です。