リビング 寿元堂薬局 北山先生の漢方Q&A
冬によく使われる漢方薬は?
Q 朝晩、自転車での通勤時間が長く、体が冷え切ってしまうことがあります。顔が青白く、手足もじんじんと冷え、血行が悪くなっているのを感じます。寒い時期に使う漢方薬があれば、教えてください。 (45歳・男性)
A 健康は、季節の変化から大きな影響を受けます。
漢方では、暑気あたりのことを「中暑(ちゅうしょ)」、寒さや冷えなど寒冷による体調不良を「中寒(ちゅうかん)」といいます。今でもよく使われる「中毒」が〝毒にあたる〟を意味するのと同じように、昔の医家が使っていた言葉です。
江戸時代の名医、有持桂里先生の著書「方輿輗(ほうよげい)」には、「軽症は冷えておなかをこわすなどという症状だけで済むが、重症になれば、卒倒したり、手足がひきつけを起こしたり、手足が強く冷えて脈が絶えるようなことまである」とあります。
一方、浅井貞庵先生の著書「方彙口訣(ほういくけつ)」には、「中寒はおなかの内が冷えたものだ」とあります。
では、中寒を改善するためにどのような漢方薬があるのでしょうか。数多くありますが、ここでは紙面の都合で3種類の薬を紹介します。
- 五積散(ごしゃくさん) 17種類もの生薬(しょうやく)を組み合わせた薬。一説では、使う生薬の種類が多くなればなるほど応用範囲が狭く、効きにくいといわれますが、方彙口訣では「五積散は多くの薬味を混ぜたものだが、多くの病気に使って効果がある」と書かれています。
また、「体の内外を温め、めぐりをよくすることが主な効果。冷たいものを飲食して内から冷えたときや、外邪(気候の影響や伝染病など外から体に入ってくる病気)によって侵されたときにも効果がある」と説いています
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 手足が強く冷える人に用いる当帰四逆湯に生姜と呉茱萸を加えて、体の内部の冷えを治す効果をさらに強めた薬です。手足の血行を改善するので、しもやけに効果があることで知られています
- 理中湯(りちゅうとう) 人参湯(にんじんとう)とも呼び、丸剤にして飲むものを理中丸と呼びます。方彙口訣では、「理中湯は、内臓が強く冷えることによって、口がこわばって声が出なくなり、手足が立ち木のように硬直し、腹痛、下痢をするような症状に用いる。特に中焦(胃)を元気にする」としています。
〝手足が立ち木のように硬直〟という表現は、大げさに聞こえるかもしれませんが、江戸時代の生活環境では寒冷の影響でこのような症状があったのかもしれません。腹痛、嘔吐(おうと)、下痢、下血を伴う症状で軽重にかかわらず使われていました。