Q 気をつけていても、冬は必ず風邪をひいてしまいます。仕事上困るので、なるべく早く治そうと努力します。夫は「風邪には葛根湯(かっこんとう)だ」と言い、確かによく効くようですが、私にはあまり効果がないみたいです。なぜでしょう。 (34歳・女性)
A 12月を迎え、これからますます寒くなっていきます。コンコンと咳をする人、マスクをする人…だんだんと風邪ひきが増えてきますね。
風邪は、正しくは風邪症候群といい、多くはウイルス感染が原因です。
原因ウイルスは200種類以上あるとされ、残念ながらいまだに、対症療法や二次的細菌感染に対する治療以外に、根本療法がありません。基本的には、安静、保温、ビタミン摂取を心がけ、体の自然回復力に頼るしかないのです。
質問者のコメントにもある通り、一般によく知られている風邪の漢方薬が「葛根湯」。
これは、中国・後漢の書「傷寒論」に出てくる方剤で、葛根、麻黄(まおう)、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、太棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の7種類の薬草の組み合わせによって出来ています。
本来は、急性の熱病に使われていた漢方薬で、「傷寒論」には、「太陽病、項背強バルコト几几(きき)、汗無ク悪風スルハ葛根湯之ヲツカサドル」と記されています。
太陽病というのは急性熱病の初期で、発熱、寒気、首筋や肩、背中の強ばり、頭痛など体の表面の症状がある状態をいいます。こういった場合は、葛根湯が効果的だということです。これは風邪のひき始めに多い症状といえるでしょう。
ところが、誰でも風邪の引き始めなら葛根湯がいいかというと、そうではありません。
葛根湯を使用する対象は、「体が弱くない人」が条件だからです。つまり漢方でいうところの「実証」タイプの人に効果的です。
また、葛根湯は、なにも風邪に効くだけの漢方薬ではありません。
私の師である漢方医、柴田良治先生の「黙堂柴田良治処方集」によると、葛根湯は、高血圧、鼻炎、副鼻腔炎、扁桃炎、肺炎、腸炎、脳炎、三叉神経痛、顔面麻痺、麻疹、中耳炎、結膜炎、皮膚炎、腰痛、肩こりなどにも効果があるとされています。
西洋医学では、それぞれの病名に対応した薬がありますが、漢方医学では、それぞれの病名に対応した漢方薬があるのでなく、その人の体質や症状に合った漢方薬を用いるので、1つの漢方薬で多岐にわたる病気に対応するというわけです。
大切なのは、その人の証(体質と症状)を見極めること。その上で、膨大な中から適した漢方薬を選ぶのは、熟練の腕が必要です。
「風邪に葛根湯」の一点張りは正しくないと言えましょう。