漢方薬選びの基本姿勢
病名で選ぶ〝病名漢方〟ではなく、
体質や症状に適した漢方薬選びのあり方を、古典の記載から考察
漢方では、症状や体質を総合的にとらえて薬を選びます。
例えば、有名な葛根湯(かっこんとう)は、出典の中国・後漢の書「傷寒論(しょうかんろん)」に、
「太陽病、項背(こうはい)強(こわ)ばること几々(きき)、汗無く悪風(おふう)するは葛根湯之(これ)を主(つかさど)る」
と記載があります。
これは「風邪のような急性の発熱性疾患の初期では、肩が強く凝り、汗をかかずに寒気がすれば葛根湯を飲めばよい」という意味です。
また、葛根湯は胃に負担を感じる人があるため、胃が弱くない人に適することが多い薬です。
漢方薬を選ぶ時には、このような体質も考慮する必要があります。
古い時代の中国医学や漢方は経験医学であり、病気や症状を改善するために、先人達は果てしない試行錯誤を繰り返し、効果的な薬とその使い方を工夫してきました。そして、その経験と工夫の積み重ねは、多くの書物に残されています。
日本の古典にも葛根湯の使い方の要点が述べられています。
江戸時代の書「漢陰臆乗(かんいんおくじょう)」には、
「(発熱性の病気で)汗がなく、ただ背中と首筋の部分が強く凝り、寒気の強いものに用いる」
と述べています。
また、「方輿輗(ほうよげい)」には、
「葛根湯の症状は、項と背中が強ばって首も回らないというほどのありさまをいう。この症状で脈浮数であるものは、その病因を問わないで葛根湯で発散すべきである」
と項や肩が強く強ばる症状のある病気に広く葛根湯が使えるとしています。
さらに「勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」には、
「葛根湯が風邪などの発熱性疾患で項や背が強く凝る状態に用いることは子どもでも知っている」
などと書かれています。
昔から「肩や項の強い凝り」が重要な使用目標である葛根湯ですが、この基本さえ軽んじられ、「風邪には葛根湯」と安易に選ばれることがいまだに多いようです。
病名で漢方薬を選ぶという〝病名漢方〟では、体質や症状はほとんど考慮されません。そのため、結果的に漢方本来の効果を得られないことが少なくないようです。
風邪のように自然に治ることが多い病気ならまだしも、治りにくい病気や症状を改善するための漢方薬選びは、より慎重になりたいものです。
多くの漢方薬の中から、その時の体質や症状に適する薬を選ぶことは意外と難しいものです。
専門家に詳しく相談しながら、適切な薬を見つけましょう。