妊娠中の養生薬として有名な当帰散(とうきさん)について、江戸時代の医師である有持桂里(ありもち・けいり)先生は「当帰散は胎児を安定させる効果がある。妊娠中に常服すると、お産に安排(あんばい)が良い」と記しています。また、古典には「当帰散は産後の百病をつかさどる」ともあります。
現代では、手軽に使える当帰散の製剤がありません。
そのため、一般的には昔から妊娠中の腹痛によく用いられてきた当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)で代用することが多いようです。
寿元堂薬局では、当帰散の代わりに人参当芍散(にんじんとうしゃくさん)を用いる場合が多くあります。これは、品質の良い漢方製剤で知られる長倉製薬の創業者である長倉音蔵(ながくら・おとぞう)先生が創作した処方です。
人参当芍散は、当帰芍薬散に人参などを加え、胃の負担になりやすい川芎(せんきゅう)の量を減らすなどしているため、当帰芍薬散よりも体を補い温める力が強く、使いやすい漢方薬なのです。体を補う必要のある人が多い現代に合っている漢方薬といえるでしょう。
しかも妊娠中の養生薬として重宝するだけでなく、月経不順、月経痛、更年期障害などに広く用いられます。冷え症で、貧血の傾向があり、疲れやすい人に適することの多い薬です。
漢方薬を選ぶ際は、専門家に相談し、適切な薬を試してみましょう。