Q 妊娠3カ月。つわりが激しく、我慢するしかないと思っていましたが、効果的な漢方薬があると聞きました。詳しく教えてください。また、風邪を引いたときなどで、妊娠中に避けた方がいい漢方薬がありますか。 (32歳・女性)
妊婦に避けた方がいい生薬があります
A つわりによく使われる漢方薬に、小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)があります。
この薬は名前に半夏が付いていることからも分かるように、半夏という生薬が入っています。この半夏は、胃の調子を整え、吐き気を抑える作用があるので、つわりの軽減に役立つのです。
実は、妊婦が飲む漢方薬に、半夏を使ってもいいかどうか…これは長い間、意見が分かれていた問題でした。
約2000年前の中国の古典「金匱要略(きんきようりゃく)」では、つわりの薬に半夏が含まれていました。その後、1100年ごろに書かれた中国の書物では、妊婦に半夏を使うべきでないと書かれたものがあり、日本でも中国にならって、妊婦が薬を飲むときはわざわざ半夏を去って用いました。
実際、江戸時代の書物「古今方彙(ここんほうい)」に載る処方のほとんどは妊婦に半夏の使用を避けています。ほかの書にも、小柴胡湯(しょうさいことう)や六君子湯(りっくんしとう)から半夏を抜いて飲ませたという記録が残っています。
しかし、1750年ごろの日本に、半夏は妊婦に大丈夫という一派が現れ、1853年の「方輿輗(ほうよげい)」では「世間では、20~30年前まで妊婦に半夏を使うのを嫌っていたが、今はちらほら使い始めている。半夏を嫌う必要はない」と紹介されています。日本ではこのころから妊婦に半夏を使うようになったようです。
最初に紹介したように、現代では妊婦に半夏を使うのは当たり前。試行錯誤を重ねた結果として漢方が成熟してきたという良い例ですね。
古典を含め、本を1冊読んでそれが正しいと信じ込むと間違いのもと。1、2冊読んだからといって本当のことは分からないものです。
それでは妊婦に避けた方がいい生薬はあるのでしょうか。妊婦は、麻黄(まおう)、大黄(だいおう)、附子(ぶし)などが入った薬には注意した方がいいでしょう。
例えば、麻黄の入っている葛根湯(かっこんとう)は妊婦には強過ぎるから使うものではないと、私が若いころは習ったものです。今では一般的に、効果が緩やかな顆粒や錠剤の葛根湯が妊婦にも利用されることが多いようですが、私自身は妊婦に勧めることはまずありません。
漢方本来の効果が発揮された場合を考えると、やはり葛根湯は避けた方が無難でしょう。風邪を引いた場合は桂枝湯(けいしとう)や香蘇散(こうそさん)などを飲むのがお勧めです。