最近、耳鳴りで悩んでいます
Q 頭の中でキーンという高い音がして悩んでいます。自分にしか分からないので周囲に理解してもらえません。テレビを消してシーンとしたとき、特に不快感があります。漢方でなんとかならないでしょうか。 (59歳・女性)
耳鳴りは漢方の得意分野です
A セミが遠くで「ジージー」と鳴くような耳鳴り、「キーン」と金属音が響いているような耳鳴りなど、聞こえ方や音の大きさは人それぞれ。
江戸時代の浅井貞庵の書「方彙口訣(ほういくけつ)」には、「耳鳴りには大鼓の音やセミの声の如きもの、音楽合奏をするように鳴り続くものなどがある」と書かれています。江戸時代の人々も耳鳴りには悩まされていたのです。
ところで、西洋医学で治りにくいが、漢方では効果を発揮するという病気が少なからずあります。その一つが耳鳴りだと私は考えます。
耳鳴りの多くが、西洋医学では検査をしても異常が見つからず、有効な手立ては確立されていません。
しかし私の経験では、耳鳴りの症状に対し、漢方薬は効果を現すことが多いと感じています。
一例を挙げてみましょう。
耳鳴り、頭痛、めまいの症状が長年続いているという50代の女性がいました。その女性が、体質に適した半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)を2週間飲んだところ、やや症状が軽くなりました。
しかし、効果がいまひとつだったので苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を飲み始めたところ、2週間後にはめまいが少し残るだけで耳鳴りと頭痛はなくなり、さらに2週間続けて飲んだところ、薬を飲まなくても済むようになりました。
この方のように早く治る確率は半々くらいでしょう。それでも耳鳴りの治りにくさを考えれば素晴らしい確率です。
それでは、耳鳴りのタイプ別に漢方薬を紹介してみましょう。
セミの鳴くような音がする耳鳴りには、五臓の一つである〝腎〟の働きを強化する六味丸(ろくみがん)がよく使われます。高齢や病後で弱った状態の人の耳鳴りにも適しています。
「方彙口訣」には、明け方には六味丸を飲んで、食前には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲むという飲み方も紹介されています。これは弱った体を元気にしながら症状(耳鳴り)も改善するという漢方独特の考え方といえるでしょう。
また、弱った状態の人の耳鳴りには八味地黄丸(はちみじおうがん)、虚弱でのぼせが強い人の耳鳴りには滋陰降火湯(じいんこうかとう)、怒りっぽい人の耳鳴りには大柴胡湯(だいさいことう)や小柴胡湯(しょうさいことう)などのように、体質に合わせた漢方薬がいろいろあります。
耳鳴りで悩んでいるなら、一度漢方を試してみてはいかがでしょうか。