Q 夫が失職、転職して以来、元気がなくなり、ふさぎこんだまま1年がたちます。以前の明るい夫の姿は見る影もありません。精神内科を受診するよう勧めたりもしましたが、本人は嫌がり、結局行かなくなりました。漢方はうつ病にも役立ちますか。(42歳・女性)
A 明るかったご主人が、うつ病とのこと。ご家族は心配ですね。
誰でもつらいことがあればふさぎ込んだり元気がなくなったりするものですが、そのうち元気を回復しようと自然に心が働きます。ところがこの切り替えが難しく、つらい状態がいつまでも続くのが「うつ病」です。
憂うつな気持ちになるほか、食欲がなくなる、興味が薄れる、動作が鈍くなる、自分を責める、不眠や過眠が続くなどの症状が挙げられます。
うつ病の人の神経細胞では、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のやり取りがうまく行われていないことが分かってきました。
西洋医学の抗うつ剤は、この神経伝達物質のやり取りがスムーズになるよう働きかけます。
漢方薬だけでうつ病の治療に当たることはまれですが、慢性化したうつ病や、繰り返すうつ病には、西洋医学の治療と併用すると良いでしょう。
漢方療法では、症状を、不安焦燥感の強いもの、抑うつ気分の強いもの、意欲障害の強いものの3つに大きく分け、適切な漢方薬を用いていきます。具体的な運用方法を見てみましょう。
焦燥感や胸の内に苦しさを感じる場合は、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などを用います。またこれに似た症状で便秘を伴う場合は三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)がいいでしょう。
不安焦燥感が強い場合は、抑肝散(よくかんさん)を使います。瘀血(おけつ)がある場合は桃核承気湯(とうかくしょうきとう)が適しています。
次は、抑うつ気分の強い場合ですが、気分的抑うつに加えて不安や動悸(き)がある場合は大柴胡湯(だいさいことう)や柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を用います。
また不眠症気味で緊張の多い人には四逆散(しぎゃくさん)を、更年期障害に伴ううつ状態の場合は加味逍遥散(かみしょうようさん)が有効でしょう。
最後に、意欲障害の強いものには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などを用います。
うつ病にかかるのには、「環境の変化」「ストレス」、出産や病気などの「身体的な変化」、几帳面、責任感が強いなどの「元々の性格」などが原因にあります。
うつ病は再発しやすいものです。家族としては「頑張って」と励ましたり「ダラダラしないで」などとしかるのはご法度。愛情をもって病気の苦しさを理解してあげてください。