病名でなく、体質や症状の「証」で薬を選ぶ
昼間は気温が高く朝晩はぐっと冷え込む、風邪を引きやすい気候が続いています。
特に今年は秋冬にかけて新型コロナウイルスが増加しやすいのではないかと懸念されており、体調を崩さないよう気を付けたいものです。
風邪のような急性の病気の対応は、現存する中国の医学書で最古のものとされる「傷寒論(しょうかんろん)」に記載されています。
傷寒とはさまざまな急性熱性病を意味し、その治療法をまとめたもの。「傷寒論」には有名な葛根湯(かっこんとう)なども収載されています。
2000年も前に既に使われていた薬が、現在でも効果を発揮しているのは驚くべきことです。
漢方の考え方では、病名ではなく、体質や症状を目標とした「証」によって薬を選びます。
風邪でも新型コロナウイルスでも、関節痛や発熱の有無、鼻水、咳などの症状によって適する薬が異なるのです。
例えば、葛根湯は、葛根、麻黄(まおう)、大棗(たいそう)、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の7種類の生薬(しょうやく)が含まれています。
寒気がして、肩や首がこわばるけれど、食欲はあり、胃腸が丈夫で体力のある人に適する薬です。
胃腸があまり強くなく、葛根湯が負担になる人には桂枝湯(けいしとう)という薬があります。
桂枝湯は葛根湯から麻黄・葛根を抜いた薬で、これに葛根を加えたものは桂枝加葛根湯といい、桂枝湯と葛根湯の中間の状態の人に使われます。
また、くしゃみを連発し、水のような鼻水が多く出る場合は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)が適することが多く、体力がない虚弱な高齢者などで冷えが強い人には、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)が使われます。
インフルエンザのような筋肉痛や関節痛を伴い、発汗がなく、高熱などの激しい症状がある風邪には、麻黄湯(まおうとう)が適する場合があります。
しかし、麻黄湯は葛根湯以上に体力がある人に適した薬ですので、虚弱な人に使うときには注意が必要です。
このほか、小柴胡湯(しょうさいことう)や香蘇散(こうそさん)、参蘇飲(じんそいん)、麦門冬湯(ばくもんどうとう)などの漢方薬が症状と体質に合わせて使い分けられており、他にも多くの漢方薬が用いられます。
風邪の症状は早ければ数時間単位で症状が変化していきます。そんな風邪の漢方薬選びは結構難しいものなのです。