Q 最近、80歳になる母親の行動が怪しくなってきました。物忘れが激しく、さっき夕食を済ませたのに、またすぐ食べようとしたりします。テレビで「認知症には抑肝散(よくかんさん)」と言っていましたが、本当でしょうか。 (50歳・男性)
思いがけない効果を発揮することが
A 新年明けましておめでとうございます。旧年中、このコラムを読んでくださった皆様、ありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。
さて、今回のテーマは認知症です。
ひと昔前なら、介護をしているのは女性ばかりでしたが、最近では息子が親を、夫が妻を介護するという男性介護のケースが増えてきました。
夜中に何度もトイレに起きて、その都度付き添ったり、財布を盗まれたという被害妄想に振り回されたり、徘徊(はいかい)するたびに探しに行ったり…。働き盛りの男性が仕事を続けながら介護を両立させるのは並大抵のことではありません。
昨年、寿元堂にも母親の介護をしているという男性が来られました。認知症が進行し、トイレに入った後、水を流さないし、電気も消さないとのこと。ところが、漢方薬を1カ月ほど飲んだころから効果が現れ始め、トイレの後、水を流し、電気も消せるようになったとのこと。施設に通えるようにもなり、介護をしている人もだんだん元気になってきました。
「認知症に漢方薬?」と驚く方もいますが、実は、素晴らしい効き目を発揮することがあるのです。
いくつか漢方薬を挙げてみましょう。
- 帰脾湯(きひとう) 虚弱体質で胃腸が弱い人の健忘症、認知症に。顔色が悪く貧血気味の人に適します。不安を覚える精神状態を安定させる作用もあります
- 抑肝散(よくかんさん) 小児のひきつけ、夜泣き、癇(かん)症に使う薬。怒りっぽいタイプの認知症の人に。胃腸の弱い人には、陳皮と半夏を加えた抑肝散陳皮半夏(ちんぴはんげ)がよいでしょう
- 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 体力や血液を補う薬。高齢者の認知症やうつに使われることがあります
そのほか六味丸(ろくみがん)・八味丸(はちみがん)など、さまざまな漢方薬があります。
ここ数年、「認知症には抑肝散」という報道をよく目にするようになりました。その影響か、どんな認知症に対しても抑肝散を使う傾向があるようです。
しかし、これは「風邪には葛根湯」という決めつけと同じくらい、間違った認識といえると思います。百歩譲って「認知症には抑肝散も効く」という程度ならまだよいでしょう。
とにかく必ず抑肝散というわけでは決してないので、それぞれの状態、体質に合わせた薬選びが大切です。そうすれば、思いがけない効果を生むことが多いのです。