ホーム漢方あれこれ漢方を試してみたい病気目の病気

目の病気~ 漢方を試してみたい病気 ~

「目は心の鏡」とか「目は口ほどにものを言う」などという言葉があるくらい、目は表情豊かでデリケートですが、目の病気や症状で悩んでいる人は多いものです。

寿元堂薬局には、慢性の目の病気で長く悩んでいる人や、目のトラブルで日常生活に不便を感じている人が相談に来られることも多く、西洋医学とは異なる漢方の効き目に驚くことも少なくありません。

本来の漢方薬を飲む人の割合は、西洋医学に頼っている人にくらべれば、微々たるものでしょう。

しかも、漢方を試す人は、視力の低下、膈膜の損傷、視野狭窄など西洋医学で治りにくいケースがほとんどです。

そのような、難しい状態の人に対する有効率の高さは、やはり西洋医学とは異なる特徴をもつ漢方ならではのものと思います。

※漢方薬を紹介する場合は、一般的に入手しやすい範囲のものに限りました。

古典では

『方彙口訣』
目の病気の項の最初のページ

漢方でも昔から目の病気は重んじられ、江戸時代の『方彙口訣(ほういくけつ)』という書の文章を意訳すると、「目は狭い場所なのに病気の数が多く、症状の幅が広いのは、頭から足まで、皮膚から内臓まで、身体のすべての様子が目の状態に凝縮される」として、「目の症状だけで薬を選んではいけない。身体全体の治療ができる人でなければ、治す腕前は上達しない」などと書かれています。

漢方では、目の病気に限らずどんな病気に対してもこのことは大切なのですが、当時の医家の中にも目の症状だけにこだわってしまう人が少なくなかったのかもしれません。

昔の病名

漢方の古典を読むと、目の病気に対する様々な日本的病名があります。

今と違って昔のことですから、ときには、病名や症状名のあらわす意味が医家によって異なることがあり、古典を読むときには苦労します。

さて、おもしろいことに、当時の病名がそのまま現在でも通用するものがあり、また、西洋医学の正式名として残っているものもあります。

たとえば、白内障は現在でも西洋医学の病名として使われていますが、しろそこひ、うみそこひ、などともよばれていました。現在では、うみそこひは緑内障のことを指すようですが、江戸時代には青盲(せいもう)、または、あおそこひが緑内障のことでした。

近視、遠視、老眼も、「ちかめ」と「きんし」、「とをめ」と「えんし」、「としめ」と「ろうがん」と読み方は異なれども、漢字と意味は昔も今も同じです。

漢方と西洋医学

私たちは、西洋医学の進歩と共に多くの目の病気が克服されてきたと思っています。

西洋医学の恩恵の大きさは誰しも認めることですが、明治時代以降に西洋医学一辺倒の世の中になった日本では、漢方の効果がいつのまにか忘れられてしまいました。

ところが、漢方が医学の中心だった時代の古典には、驚くべき漢方の効果が載っています。

たとえば、倒睫拳毛(とうしょうけんもう)は、拳毛倒睫ともいい、さかまつげのことです。
今では手術して治すさかまつげについて、「さかまつげは何度毛を抜いても、あとから生えてくるものである」としながらも、漢方薬を飲むことでその効果は神の如しであると記載されている処方もあります。

昔の日本には、近視や遠視など身近な症状をはじめとして、白内障、緑内障など多くの人が患う病気からめずらしい難病まで全て漢方で対応していた時代があったのです。

今では忘れられてしまった漢方の効果の中には、西洋医学を凌ぐものがまだ多く残っています。

眼精疲労

日常生活の中で目を使うことが増えたせいか、最近の10年くらいは目の疲れの相談が増えています。

「疲れ目」は、休憩によって回復するような軽度のもので「眼疲労」といい、目を休めても快復しにくいものを「眼精疲労」といいます。

眼精疲労になると、単に目の疲れだけでなく、目に痛みを感じ、目がかすみ、肩がこり、頭痛がおこることがあります。

眼疲労はもちろんのこと、眼精疲労にも漢方はよく効きます。

しかし最近は、パソコンなどのディスプレイを見ることの負担によっておこるVDT症候群という症状が問題になっています。

ディスプレイを長時間見るなどということは漢方の発達の歴史の中にはなかった環境なので、VDT症候群にどこまで漢方が効くかはわかりませんが、ほとんどのケースで症状が軽くなります。

私ごとですが、昭和58年(1983年)にコンピューターと出合い、もう30年ほどの付き合いになります。相性がよかったのか、今まで途絶えることなく、大量の資料を効率よく整理しています。

今でも、接客の時間以外はほとんど一日中パソコンと向き合っているので目は疲れますが、楽しい日々が過ごせているのは漢方のおかげかもしれません。

飛蚊症

『方彙口訣』には「目にチラチラと星のような花のようなものが見える症状を眼花という」などの記載があります。

眼花は今では飛蚊症といい、視界の中に糸くずや蚊のようなものが飛んでいるように見える症状のことです。
水晶体の奥にある硝子体の中に、何らかの原因でにごりが生じておこります。

飛蚊症は網膜剥離やぶどう膜炎などであらわれることがありますが、ほとんどは病的なものではなく、生まれつきか老化によるものです。
これらは、通常は西洋医学の治療の対象にはなりませんし、西洋医学で効果的な治療法はありません。

ところが、症状が気になる人も多く、漢方では改善されることが多い症状の一つです。

飛蚊症に限らす、西洋医学で「病的でないから治療する必要がない」といわれる症状の中には、西洋医学では治せないが、漢方がよく奏功するものがたくさん含まれています。

白内障

目ををカメラにたとえると、レンズの働きをする水晶体が白く濁り、かすんで見えにくくなる病気が白内障です。

多くは老化によるもので、老人性白内障といいます。

以前は白内障を手術しても視力が十分に回復することがなかったので、漢方の効果が喜ばれたものです。

今では、西洋医学の技術の進歩によって手術が簡単になり、予後もよくなってきたので漢方の必要性はあまり高くなくなっています。

透明な水晶体は光を十分に通す
水晶体がにごり光が通りにくい

緑内障

緑内障は、何らかの原因で視神経が損傷を受けて、視野が欠けたり、狭くなったりする病気です。

以前は、眼圧が高くなることで視神経を圧迫して障害するということでしたが、最近では、眼圧が高くなくても緑内障になる人が多くいることがわかっています。

西洋医学では、点眼薬などの薬物治療のほかレーザー治療や手術などが行われますが、残念ながら進行を抑えることしかできません。

江戸時代でも緑内障は難しい病気でした。

『方輿輗(ほうよげい)』では「内障(白内障、緑内障など)は専門でなければ対応できない」といい、『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』には「内障は薬効が見えにくい」という記載があります。

ところが、寿元堂薬局の経験では少し事情が異なります。

少数の事例ながら、最近の3年間に6人の相談を受けて、2人の視野が改善しています。
もちろん眼科の先生の診断の結果です。

時代背景など様々な違いはあるでしょう。
しかし、今の西洋医学と昔の漢方を併用することで、このような効果が、高い確率で出たことは驚くべきことです。

進行を遅らせる効果も、西洋医学と漢方の併用が優れていると考えられます。

しかし症状の進行を遅らせるだけでは、漢方の効果に気づきにくいのです。

これらの効果は、良質の生薬でつくられた漢方本来の煎じ薬から得られたものですが、顆粒や錠剤などの漢方製剤でも、ある程度の効果が期待できることがあります。

緑内障による視野障害の進行のイメージ